代表のご挨拶
2024年を迎えての会長メッセージ
コロナウイルス禍による行動規制が緩和された4年振りの新年となり、閉塞感から解放された新年を迎えられたことと思います。しかし嘗ての日常が戻った訳ではなく、コロナウイルスの変異種の動向を注視する必要があります。また3年半にわたる行動規制による影響や失われた時間の問題がありますので、きめの細かい対応や社会的配慮が望まれるところです。更に重要なことは、3年半に及ぶコロナウイルス禍の行動制限により影響を受けた経済の立て直しと、長期化した異次元の金融緩和と多額の財政金融政策により生じた信用通貨の膨張を正常化して行くという難しい経済運営を行わなくてはなりません。特に、米欧諸国は2023年3月頃より金利引き上げを含む金融引き締めを徐々に実施して来ておりますが、日本は金融緩和を未だに継続しており、物価高騰と円安という結果を招いていますので、経済金融の正常化による副作用を最小にしながら進めなくてはならず、家計への影響が気になるところです。
その中で、新年早々にマグニチュード7.6の能登半島地震が発生し、頻発する余震と津波により更に被害が拡大しました。被災地域の皆様に心からのお見舞いを申し上げますと共に、遅滞ない復旧、復興を願っております。
- 政治的安定が維持されたネパール
2022年12月26日に5党(公認政党は7党)によりダハール・プラチャンダ ネパール共産党(マオイスト・センター)党首を首相とする連立政権に合意され、翌23年1月に下院の承認を経てダハール・プラチャンダ政権が発足したものの、保守穏健派から急進左派を包含する連立政権の安定性が注目されました。その中で、2023年2月27日、下院による大統領選出を巡り与党内で対立し、野党候補を支持する与党第2党の共産党穏健派UMLが連立政権から離脱しました。しかし、第1党のコングレス党と第3党の共産党マオイスト派が連立政権発足時の内々の合意に沿って、コングレス党のパウデル大統領(元副首相)を選出し、相対的な安定を保ちました。なお、パウデル大統領は2020年春の叙勲で旭日大綬章を受章されています。
対外関係においてダハール・プラチャンダ首相は、国境を接するインドと中国との関係を重視し、2023年5月末よりサウード外相を伴って4日間の日程で訪印し、モデイ首相と貿易、トランシット、エネルギー、鉄道リンクの延長など2国間協力関係の緊密化につき会談しました。同年9月にはエネルギー協力において、インドが今後10年間に1万メガワットの電力を購入することに合意しています。
中国との関係においては、同年9月、アジア競技会に際し、プラチャンダ首相は外相と共に10日間中国を公式訪問し、習近平主席と一帯一路政策を含め2国間協力を中心に会談しました。その際、一行はネパール西端とインド国境に接するチベットのマンソラヴァール地方を訪問し、インドか等からの巡礼者の往来を容易にするため、西ネパールからチベットへのルートを増やす意向を表明しました。中国は、近年ネパールへの輸送をインドのコルカタ経由からヒマラヤ越えの陸路に転換しており、西ネパールからチベットへのルート増加も一帯一路の拡大を念頭に置いた陸路強化の一環と見られます。
経済面では、ネパールの2023年度経済成長率は4.1% と22年度の5.8%に比しやや鈍化しています。その中で海外からの送金が国民総生産(GDP)約25%を占め、貿易赤字の約84%を賄う形となっています。2023年のネパール人の海外労働者は約350万人(家族を含めると400万~600万人)、総人口の14%以上にも当たり、主にマレーシアや湾岸諸国が対象となっているようです。海外送金は残された家族の生活の助けとなっていますが、中長期には脳流失となる上、事実上の国内人口の減少により国内需要の後退に繋がるので、国内経済の促進、国内での就業機会の増進が課題となります。その上で政治の安定が長期に維持されることが望まれます。
- グローバリゼイションから分断の世界へ ー新たな世界秩序の模索―
(1)1990年代のソ連邦の崩壊と東欧の民主化、独立により東西冷戦が終わり、地球規模で国境による制限が緩和され自由な国際交流や金融、情報の流通が行われるようになり、グローバリゼイションが進展しました。しかし、この動きは、2020年2月から新型コロナウイルスが国際感染症と指定され、各国における行動規制や入国規制が実施され、国際的交流は3年半にわたり制限されると共に、経済活動を支えるため、ほとんどの国が大幅な金融緩和と財政出動を実施した。コロナウイルス対策は2023年春頃に終わり、正常化が漸次行われていますが、コロナウイルスの変異種の問題がある他、それまでの大幅な信用通貨増発によるインフレ懸念に対応するため、日本を除く欧米諸国を中心として金利引き上げを伴なう金融引き締めが行われ、経済の正常化が行われており、正常化まで世界経済は微妙な調整が必要になりそうです。
(2)国際政治・安全保障の分野でも、ウクライナとロシアが2014年に停戦に関する8年間のミンスク議定書に合意をし、その間東部2州問題を解決することになっていましたが、2021年12月、ゼレンスキー大統領が協議継続を拒否し、欧米の軍事同盟加盟NATO(北大西洋条約機構)への加盟を主張したことから、同条約期限切れ1か月後の22年2月24日、ロシアがウクライナに侵攻した。ロシアによるウクライナ侵攻は強く非難されるべきことでますが、この問題は、本来ソ連から独立したウクライナとロシアの2国間問題であり、2国間問題或いは欧州問題として解決されることが望ましいところです。しかし米国を含むNATOが大量の武器を含むウクライナ支援を表明したことから国際問題化したことはご承知の通りです。
更に米欧は、広範な対ロ経済制裁を実施した上、ロシアの銀行間決済を制限したため、エネルギーや穀物輸出を含め、ロシアとの経済交流が著しく制限されるようになりました。他方ロシアは、安全保障上はもとより、経済関係においても中国や北朝鮮に接近し、新冷戦とも言うべき世界を2分するような対立構造が構築され始めています。それは両陣営の市場を狭める結果となり、コロナ終息後の世界経済の正常化プロセスを制約する要因となっています。
(3)中国との関係においては、ゼロ・コロナ政策が過剰な政府支出や投資・金融を加速させ、不動産を中心とする経済停滞を招いており、成長率もコロナ前の2桁台から1桁台中頃に低迷しており、従来の経済牽引力は無くなっています。また中国が国外の自由経済市場の利益を自由に享受する一方、国内では諸外国の活動を厳しく中央統制している現状に対し、米国他先進工業諸国がフェアーでなく、また高度技術や知的資産において安全保障上の問題があるとしており、内外条件の平準化を求める一方、平準化が実現するまで、一定の制限等を課しています。この経済問題のほか、一帯一路政策に象徴される中国の拡張主義への警戒感と相まって、中国と先進工業諸国との関係が抑制的となっています。半面、このような関係から、中国がロシアとの緊密化に向かっています。このような国際環境の変化は、残念ながら、ネパールを含む途上国の経済促進にとってプラス要因とはなっていないのが現状です。
- 日・ネパール交流
スベデイ在京ネパール大使が2022年8月に赴任されたのを受けて、23年1月に同大使夫妻の歓迎昼食会を開催致しました。まだ対コロナ行動規制が続いていた時期でしたので、首都圏の会員を中心に開催させて頂きました。スベデイ大使は大変行動的な方で、当協会を日・ネ民間交流の中心として評価されています。これも維持会員を含め会員の皆様のご支援の賜物と感謝しております。
また2023年は当協会が公益社団法人に移行して10周年に当たり、丁度コロナ規制も同年5月からインフルエンザ並みに緩和されたことから、9月に祝賀レセプションを開催致しました。なお、「現代ネパールを知るための60章」が2020年3月に出版されましたが、コロナ規制のため出版記念を実施出来なかったところ、この種の地域専門書としては売れ行きが良く、23年5月に第2版が出版されたのを受けて、10周年記念と兼ねて60章第2版の出版記念とすることが出来ました。この他にも、コロナ規制が緩和されたことにより、デウーバ前首相夫人のアルズ・デウーバ連邦下院議員や最高裁判事などが訪日され、交流することが出来ました。
2024年は、日本ネパール協会設立の通年60周年を迎えます。先達の皆様のご努力と会員の皆様のご支援の賜物です。既に現代ネパールを知るための60章を出版していますので、記念誌等は作成致しませんが、会員の皆様への感謝を込めて記念になるものをと考えております。
この間、各種の交流を重ねて来ましたが、現在在日ネパール人は15万人を超え、在留外国人数では6位となる大きなコミュニテイに発展しています。当協会の活動の柱である交流促進の成果でもあり、当協会の基本目的は達成されていると思われます。他方、他の多くの古参団体同様に会員数が減少しており、当協会として今後何が出来るか、ネパールの将来のために何をすべきなのかを、活力が残っている内に検討、実施する時期にあると思われます。
日本に在住するネパール人が増加することは喜ばしいことですが、他方ネパールの人口の14%以上が海外で就労しなくてはならない状況は、国内に適当な就労機会がないからに他ならず、この状況を改善するために同国の経済成長を高め、雇用機会を増やすことが望まれます。
その観点から、農業分野において付加価値の高い野菜等の生産を図ると共に、ITを利用したネット販売を含め販売を促進し、また農業関連の中小の産業を企業化するようなアグロビジネス支援が出来ないかを検討しています。ネパールにおけるこの分野の活動促進には次のような要因があると思われます。
(1)ネパールは、水資源は相対的に豊富で、また気候の多様性から多種多様な作物が可能で、南部アジア等において農業は比較優位がある。
(2)就労人口の64%以上が農林業分野、他方この分野の所得は国民所得の31%程度に留まっています。この分野の所得増を図らないと国民所得の増加は困難ですが、成長の伸びしろは大きいと思われます。
(3)工業化はどの途上国も望んでいますが、90年代以降の促進努力を経ても、製造業のGNPシェアーは5.5%です。これに対し工業製品卸業シェアーは14.2%で、工業製品を輸入に依存する状況です。過去の実績から、現実的に急速な工業化は困難と見られます。
(4)小規模農業に適した農耕器具の生産や収穫物のマーケテイングにおいて、梱包や輸送、ネット販売網の利用など、アグロビジネス促進の余地があります。また、この分野では当協会には実績があります。2015年4月にネパール大地震が発生し大きな被害が出ましたが、日本ネパール協会は、広く国民の皆様からの5.4千万円の義援金を得て、同国への救済・復旧支援を実施致しました。その内、住居の9割以上が倒壊したレレ地区に住居再建の一助として、経験のある現地団体を通じトマトのハウス栽培支援を実施しましたが、現在までに関係農家のほとんどがより良い形で家屋の再建が実現されています。直接住居再建支援を行うことも可能ですが、資金の制約があり一部の住居しか支援できない上、この支援により関係農家は現在でも現金収入があり、一部は再栽培資金として栽培を持続し、生活向上のために役立っているところです。
資金には限度がありますが、それだけに1回限りの支援を行うより、自助努力により持続可能な支援を行うことが望ましいのではないでしょうか。
皆様と一緒に考えて行きたいと思います。
本年は、日本にとって大変厳しい門出となりましたが、皆様のご健勝とご多幸をお祈り致します。