2015年4月25日、ネパール中西部(ゴルカ郡)で発生したM7.8の地震は同国に甚大な被害をもたらした。これに対して国際社会や日本政府による緊急支援物資の供与、緊急援助隊の派遣などの支援活動が行われたほか、民間レベルでも救援活動が多く行われた。当協会も日本各地からの寄付を受け付け、総額は2016年3月末で5,500万円を超える。震災直後には迅速な支援を優先しつつ、被災地へのテントや食料等の供与、ならびに子供たちが授業を継続するための仮設校舎(TLC)の設置を中心に支援を行うとともに、在京ネパール大使館(1千万円)及び、海外在住ネパール人協会(1.8千万円)を通じて被災者へ緊急支援を行った。また、直接実施した活動については、ネパール日本留学生同窓会(JUAAN)及びJICA研修員同窓会(JAAN)を実施団体として、それぞれの組織メンバーが自らの専門を活かしたボランティアワークによって実施されている。両団体メンバーは被災地に何度も足を運び、被災者や地元関係者と話し合いを重ね、郡関係者、中央政府との折衝、許可の取り付けなど事業の運営に尽力してきた。今般、復興支援の現況を確認するとともに両団体ほか関係者と協議したところ、概要を以下のとおり報告する。
1.JUAAN
JUAAN(Japan Universities Alumni Association of Nepal)は日本の大学への留学経験者約200名で組織するNPOであり、Dr. Rohit Pokharel氏(トリブバン大学教育病院整形外科教授)が代表を務めている。当協会は2015年5月に仮設校舎(TLC)支援として300万円を、また2016年7月には2階建て8教室からなる中学校建設支援として620万円を支出している。これらの内容は次のとおり。
(1)仮設校舎(TLC)
震災によってネパール全体では約1万6千校が被害を受けたと報告されており、政府は授業を継続するための仮設校舎(TLC:Temporary Learning Center)建設を各方面に要請した。JUAANはこれを受けて当協会に資金の支援を求め、ダディン、ゴルカ、カブレ、ラリットプール、バクタプールの5か所にTLCを建設した(下表参照。なお一部については、地元の学校運営委員会の要望を受けてTLCではなく学校を再建した。)一般的にTLCは、トタン板や材木、竹、レンガ、砂利等の建設資材の購入、運搬、大工への賃金、ボランティアの食事代からなり、地元住民からの材料や労力の提供もあわせた住民参加型により建設され、全体の経費は2,400,317.85ルピーであった(JUAANからの報告)。またJUAANはトリブバン大学の教員が多いというメンバーの特性を活かして、現地での衛生教育やトラウマ対策に関する講義や指導も行っている。
TLCの実施状況
District | School Name | Student | Member in charge |
Dhading | Nalang High School | 281 | Dr. Dinesh Bhuju |
Menduka High School | 350 | ||
Gorkha | Saraswoti Higher Secondary School | 705 | Dr. Rashila Deshar |
Bhimsen Primary School | ― | ||
Kavre | Kalidevi Primary School | 50 | Dr. Menasa Thapa |
Palanchowk Higher Secondary School | 250 | ||
Lalitpur | Chitra Kumary Primary School | 150 | Mr. Manoj Giri |
Bhaktapur | Bal Siksha Sadan Lower Secndary School | 150 | Dr. Khadga KC |
今回の現地視察では上記TLCのうち、地元の学校運営委員会からの要望を受けて仮設校舎ではなく通常の校舎再建を希望したカブレ郡の小学校を視察した。同校はカトマンズから車で3時間近く走った山の頂にあり、雨期にはぬかるんで車両での通行はできない。途中、遠くにヒマラヤが眺望できるドリケルを通過するが、現在道路復旧工事の真最中であり、土ほこりのため近くの山すら見渡せない状況であった。ドリケルからさらに1時間半くらい、延々と山道を昇ったところに新設の学校が見える。42名の生徒は近隣の村から30分程かけて山頂の学校に通っている由である。既に2棟が完成しており、1棟(2教室)は当方の寄付金を通じてJUAANにより、もう1棟はノルウェー(NORAD)の支援により建設されたものである。仮設ではなく基礎もしっかりしたレンガ造りであり、男女別のトイレも設置されている。校長は、今後できれば内装を整えていきたいとしていた。
2)Shree Bal Shiksha Sadan Lower Secondary Schoolの再建
同校は震災の被害が大きかったバクタプールのはずれのチタポル村に位置し、1961年に設立され1年生から8年生までが学んでいる。地震で校舎が倒壊したため仮設校舎(TLC)で授業を行っている。残った校舎もレッドカードが貼られているが今も使用されている。校舎再建にあたっては昨年9月に小川大使も出席されての地鎮祭(当協会よりは同地訪問中の石田理事出席)がとり行われ、建設するばかりとなっていたが、教育省からの許可がおりていないため着手できない状態にある。校長及び地元の学校運営委員会からは、JUAAN、当協会及び日本の支援者に対して心からの感謝を述べるとともに、早急に許可が得られ工事が進捗することを希望する旨述べられた。震災復興に関する新たな基準やルールづくりのため、学校建設においても時間がかかっているが、近く教育省から許可が得られる見込みとのことであった。新校舎は2階建て8教室が建設される予定であるが、当協会が支援した620万円では不足分が見込まれるところ、その分はJUAANメンバー等からの寄付を募っているとの説明があった。校舎完成後に改めて本案件に関する報告を受けることとした。
2.JAAN
JAAN(JICA Alumni Association of Nepal)は1974年に設立されたJICAベースの研修参加者による同窓会であり、43年の歴史と約540人のメンバーを有している。現在の代表はDr. Ram Chandra Bhusal が務め、JICAと連携した活動のほかにコミュニティ開発事業をボランティアベースで実施している。JAANは、従来から彼らの活動地域を中心として、被害の大きかったラリットプール郡ナル村(Nallu)、レレ村(Lele)、チャパガウン村(Chapagaun)及びシンドゥパルチョークのボテ・ナムラン村(Bhote Namlang)、ランガルチェ(Langarche)村等に対して緊急支援を実施するとともに、中長期的な復興支援として野菜やハウス栽培等の農業指導を行っている。当協会はJAANに対して、緊急支援として350万円(200万円及び150万円)、中長期的な復興支援として400万円の資金を支援している。後者については進捗状況に応じて400万円の追加支援を行う予定である。これらの内容は以下の通りである。
(1)緊急支援(食料、テント等の供与)
JAANは地震直後に上記地域の被災住民に対して食料(コメ、食用油、塩等)やテント、マット等を配布した。この模様はネパールのTVニュースでも報道されている。また、7月には2回目(150万円=122万2,500ルピー)の支援として、食料やテントに加えて、野菜栽培に必要な種子、肥料、農薬、ビニールハウス用資材等を供与している。なお、1回目の支援については当協会からの200万円(163万4千ルピー)に加えて、他の支援団体やJAANメンバーからの寄付をもあわせた総額258万1千ルピーによる被災地支援を行い、これによって862世帯、約4,000人が裨益した。(JAANの報告)
(2)地域復興(農村コミュニティ開発)支援
被災地に対する支援が一時的な緊急支援にとどまることなく、中長期的な観点から地域住民の現金収入、生活向上につながるような支援が行われるべきではないかという発想にたってJAANのコミュニティ開発支援が始まっている。また当協会としては農業生産だけではなく、品質管理や販路開拓等を含めて持続性のあるコミュニティ開発に繋がっていくことを期待している。そのためJAANは、従来から農業指導にあたってきたラリットプール郡の村落を対象に、震災復興としての農村開発への取り組みを始めた。具体的には、ナル村、レレ村における女性グループを対象に、農業を専門とするJAAN代表のブサール氏をリーダーにJAANチームによる野菜栽培を指導し、集団出荷等によって収入を上げていこうとしている。そのための種子の配布、トレーニング、コレクションセンターの設置、マーケティングなどをサポートし、将来的にはリボルビングファンド等も開設する。それにより、震災からの復興と畑作を中心とする村落開発モデルをつくっていこうというものである。
このような村落開発事業は今に始まったことではなく、山あいの農業国であるネパールでは従来から行われてきたことである。しかしながら、政治的な混乱もあって地域での開発事業に手が回らなくなっていたこと、農業普及センターは客待ちの姿勢であること、現金収入を得るために男手は都市部(あるいは海外)に出かけ、若者は村にいつかなくなっていることが背景にあり、稲作ができない山間地では今や農業を担うのは女性だけになっている。そのようななかで、追い打ちをかけるように先の大規模地震で大きな被害を受けている。
先のミレニアム開発目標によって世界的に絶対的貧困が大きく改善されたと言われるが、取り残された地域がサブサハラ・アフリカと南アジアであることを考えると、一段と疲弊するネパールの農村の現状を前にして、農村に対する支援のあり方を改めて考えざるを得ない。その意味で当協会の支援の一環としてJAANが取り組む農村コミュニティ開発は新たなチャレンジでもある。なお、当協会からの400万円の支援については上述のとおり種子・肥料、ハウス栽培用品、指導員等の人件費、集配所建設や研修費等に充てられているため、作業の進捗に応じて別途報告を受けることとした。
レレ村の女性グループとハウス栽培 |
ナル村の女性グループとソーシャルモービライザー(右端の2人) |
3.Shree Bhagyodaya Higher Secondary School e-library
同校はバクタプール郡はずれのサク地区にあり、5歳から16歳までの生徒330人(教員は29人)からなる比較的規模の大きな学校である。同校の学校運営委員会から直接当協会に対してe-library建設のための支援要望があり、263万円を支援している。e-libraryは、全生徒が使用するコンピューター及び周辺機器、視聴覚機器を備えた電子図書館であり、未だ建屋は建設途上であるが、コンクリート造りのしっかりした建物となっている。学校長によれば完成までにさらに2~3か月を要するとのことであった。本図書館の建設にあたっては当協会からの上記資金に加えて、政府から40万ルピー、ガネッシュマン・シン基金から270万ルピアの支援を得ているとの説明があった。完成後には改めて当協会に報告するよう依頼した。
Shree Bhagyodaya校(一部レッドカードが貼られている由であるが、今も授業に使用している。)
(2017.3.中川理事記)