2026/02/04(水)

代表のご挨拶

2026年 会長年頭のメッセージ

 

公益社団法人日本ネパール協会

 代表理事・会長 小嶋光昭

 

皆様にはそれぞれに希望に満ちた良い新年を迎えられたことと思います。

昨年は全国的な猛暑や一部地域での豪雨など天候不順により落ち着かない日々を過ごされた方も多かったのではないかと思いますが、連立政権が1年ほどで交代し、米国でのトランプ大統領2期目の発足や韓国での政権交代で将来への不確実性が増した形となりました。しかし、それは同時に第2次世界大戦後80年を経て、ソ連邦の崩壊に伴う東西冷戦が終焉する一方、中国、インド、ブラジル、南アなどの新興諸国が急速に発展し始め、戦後の南北関係という枠組み、発言力に変化が起こり始めたことを意味します。それは日本を含む世界で起こり始めています。

 

1.ネパールの政権の交代を促したZ世代の台頭

ネパールにおいて、2017年11月の新憲法下での2回目の連邦議会選挙の後、プラチャンダ政権から政権を奪回したオリ政権は、未登録のソーシャルメディア・サイト運営会社の登録を促すためにソーシャルメディア(SNS)の遮断を強行したことから、連絡手段や日常的娯楽を奪われた形となったZ世代と称される15歳から35歳前後の若い世代が激しい抗議活動を展開し、政治家や政府機関等を襲うなど激化しました。これに対し、警察が強硬な制止活動を実施したことから、死者19人以上、負傷者数百名を出す事態に発展し、その責任を取って内務大臣が辞任、次いでオリ首相が辞任する事態となりました。

このような状況を受けて治安維持を任されたネパール軍のシグデル参謀総長は、抗議活動の停止と事態打開に向けた協議を提案し、9月12日、パウデル大統領の下で、Z世代を中心とする若い世代の代表達との協議が行われました。この協議を受けて、パウデル大統領はこれら代表の提案に沿って、元最高裁長官のカルキ女史を暫定政府首相に任命すると共に、2026年3月5日に連邦議会選挙を実施することを表明しました。また、カルキ首相は9月15日、大蔵、エネルギー、及び内務の3大臣を任命し、外相等は首相が兼務することとなりました。

ソーシャルメディア・サイトの遮断問題がこのような抗議活動に発展した背景としては、ネパールにおいて失業率が公式発表の10.7%以上に達している一方、汚職の噂が絶えず、閣僚や一部政治家の子弟が豊かな暮らしをしているなど若い世代の不満が募っていたことが挙げられています。ネパールにおけるZ世代の台頭は、第2次世界大戦後80年が経過し、各国の発展段階等で異なりますが、日本を含む今日の世界共通の傾向であり、世代による知識経験や価値観の相違に根ざす時代の潮流と言えます。ネパールにおける3月の連邦議会選挙の結果が注目されるところです。

 

2.新興諸国の躍進と世界秩序のきしみ

(1)戦後80年、中国、インドなど新興諸国の発展はめざましいものがあり、中国は国民総生産が世界第2位、インドが日本を抜いて第4位を占めるに至っており、先進工業諸国による戦後の経済技術支援の結果として歓迎されることですが、それに伴いこれらの諸国の世界での発言力が強くなり、多くの場合「現状の変更」を求めるようになります。「力による現状変更」に反対すると標語のように言われ、その通りではありますが、それは既存社会の主張であり、世界秩序をこれら新興諸国との間でどう調整し、武力紛争を回避するかが大きな課題です。

(2)トランプ大統領2期目発足で岐路に立つ既存秩序

2025年1月トランプ米大統領が2期目就任直後、ほとんどの国に対し高率の相互関税を課すと表明され、また米国の戦後政治の常識となっていたマイノリテイ支援、人権政策や移民政策等の変更が表明されました。日本を含め多くの諸国の既存メデイア等はこれを自由貿易、多国間主義や多様性、人権の後退などとして批判していますが、特定の施策が長く続き過ぎると弊害や逆不平等感が生じるのもまた事実です。

トランプ大統領は米国第一主義の下で輸入品に高関税を課し、中国等に移された製造業の再構築を図ろうとしています。1990年代に東西冷戦は終わり、2000年に中国が多国間自由貿易市場を促進する世界貿易機構(WTO)に加盟し、経済のグローバル化が進められましたが、多国間自由貿易の恩恵を最も受けたのが中国で、超特急の経済成長を遂げ、現在世界第2位の経済大国となり、国連分担金も米国の22%に次いで第2位の地位を得ています。2030年頃には中国は米国を抜いて世界1位の経済大国になることが予想されており、米国にとっては待ったなしの状況になっています。

他方、中国は多国間自由貿易体制の一員になったにも拘わらず、14億人の国内市場の自由化を進めず、「社会主義市場経済」の名の下に強力な中央統制を継続し、外国企業活動に強固な壁を設けているので、フェアーな競争が行われているとは言えません。この点を理解せず、教科書的な多国間主義、自由貿易主義を未だに主張する向きがありますが、トランプ政権が高過ぎる相互関税を表明したことなどその手法に問題はあったとしても、このような異なる体制のメガ人口大国が存在する以上、多国間主義、自由貿易主義を基本としつつ相互主義に基づく調整は仕方ないことでしょう。4月に予定されているトランプ大統領の訪中の際の中国との首脳会談により一定の結論が出される見通しですが、次は同じくメガ人口大国のインドとの調整が必要となると予想されます。

(3)4年目を迎えるロシアーウクライナ紛争

トランプ大統領の下でロシアーウクライナ紛争の和平交渉が進められていますが、武力対立は4年目を迎えます。ウクライナのゼレンスキー大統領が主張しているNATO加盟による安全保障問題と共に、領土問題が絡んでいるため、どの国であれ解決は容易ではありません。

ウクライナは、歴史的、地理的に旧ソ連邦の対西側への安全保障上の重要な拠点、砦となっていた地域であり、ソ連邦崩壊に伴い独立した後、2014年に2022年2月までのミンスク停戦合意に基づき、ロシア人の多い東部2州の自治等が検討されることになっていました。しかしゼレンスキー大統領が就任し、自治交渉を拒否、NATO加盟を主張したことから、紛争が再発したもので、基本的にロシアとNATO欧州の地域問題です。ウクライナがNATO欧州の支援を求め、国際問題化に成功し今日に至っています。もとより武力戦争は望ましくありませんが、日本の地権者が存在し墓所や鳥居などが残っている北方領土問題とは異なり、いわば北方領土はウクライナの東部2州に類似する問題であり、日本は日本としてロシアとの領土問題が解決できる関係を維持・構築することが不可欠ではないでしょうか。バイデン米元大統領の下で経済制裁を含むロシア孤立政策が進められましたが、ロシアを中国や北朝鮮に追いやる結果となっており、外交的、国際的には負の遺産となっています。トランプ大統領に政権が交代し、ロシアとの関係再構築が試みられていますが、今後、日本等その他諸国にとってもロシアとの関係が大きな課題となっています。

 

3.国際関係の大きな潮流の中での日・ネ関係

日・ネ関係もこの大きな潮流の中で進展していますが、2国間交流での変化は主としてネパールの政治、社会変化から起こっています。2008年の王政の廃止と2015年のネパール連邦民主共和国憲法の制定、そして2025年の新憲法下での政権の崩壊です。

その直接の要因は、SNSの禁止によるZ世代を中心とする政権・政治家への不満ですが、背景として長引く高失業率と海外出稼ぎ・移住の増加があります。海外出稼ぎは海外からの送金により国内に居る人達を助けますが、400万人内外に相当する国内需要が消えることになり、経済規模が萎縮し成長が鈍化します。そのため国内の雇用機会を創出、ネパールに戻れる環境を創ることが不可欠です。

当協会は、近隣諸国との関係で比較優位にある農業に着目し、2024年6月の総会の承認を得て、簡易なハウス栽培による高級野菜の生産、販売を通じ農業所得の向上とこれに関連する事業の拡大による雇用機会の創出を目標としてネパールにおける農業支援プロジェクト(JNS Agriculture Promotion Project in Nepal)を現地関連団体(ISAP)と協力し開始致しました。2025年11月にその視察を目的として会員等を募集し視察旅行を実施したところです(視察結果については別掲の同グループ報告を参照)。この事業への評価は大変高く、支援規模には限りがありますが、パイロット事業として何がしかの役割が果たせることを願っています。

他方、日本もバブル経済崩壊後の停滞が長期化し、日本の国内総生産(GDP)は既に人口8千万人程のドイツ抜かれ、本年にはインドに抜かれ世界第5位に後退すると予想されています。一人当たりの国民所得では20位半ばと後退していますが、更に日本の一人当たり労働生産性は、先進工業国で構成されるOECD加盟国中で29位とほぼ最下位に低迷しています。特にサービス産業の生産性が低いことや高齢化と非正規雇用の増加などが指摘されています。一部の指摘は妥当と思われ、簡素化が不可欠ですが、海外でも広く評価されている日本人の勤勉さや各種分野での匠の技術等を勘案すると、それだけでは説明がつきません。国際比較での日本の生産性の低さは長期の円安と相まって、日本において役員報酬を含む賃金所得が過度に抑制されて来たことを物語っています。今後、インフレを上回る賃金所得の増加と国内総生産の6割前後を占める消費需要を喚起して行く成長モデル、経営モデルの定着が必要なようです。

2026年が皆様にとって良い年となりますようお祈り致します。