2025年 会長年頭のメッセージ
公益社団法人日本ネパール協会代表理事・会長 小嶋光昭
皆様にはそれぞれに良い新年を迎えられたことと思います。
昨年は新年早々から能登半島を中心として地震と津波が襲い、またその救援に向かう海上保安庁機が離陸時に事故に遭うなど落ち着かない新年でしたが、本年は北陸、東北地方などでの降雪は別として太平洋側はおしなべて天気に恵まれ、また長目の年末年始休暇を取って海外で過ごされるなど、ゆっくりと過ごされた方が多かったことと思います。能登半島の復旧が同年9月の大雨被害もあり遅れ、未だに避難所生活を強いられ、また見通しの立たない方々もおられ、心からお見舞いを申し上げる次第です。
他方2023年5月以降新型コロナの呪縛から解かれ、全体として徐々に日常が戻って来ていますが、コロナ禍の副作用を克服し健全な状態になるためには、日本だけでなく、ネパールを含む世界各国における課題解決に向けての発想の切り替えと努力、そして時間が必要なようです。
1、ネパールにおける連立政権の不安定性
コロナ禍の中で実施された新憲法の下での2回目の連邦議会選挙(2022年11月)において過半数を獲得した政党がなかったことから、ネパール・コングレス党(NC)とネパール共産党(マオイスト・センター)を中心とする5党(公認政党は7党)がダハール ネパール共産党(マオイスト・センター)党首を首相に指名することに合意し、2023年1月、ダハール政権が発足しましたが、長くは続かなかった。中道右派と急進左派との連立は、市場経済と社会主義的な経済という基本思想上の相違と共に、現実問題としてコロナ禍の影響により観光客は減少し失業率が10.7%と高く、インドへの電力輸出等を重視するコングレス党と中国との協力に重点を置くネパール共産党(マオイスト・センター)との間で軋轢が生じます。
ダハール首相は、こうした政策や政権のあり方におけるコングレス党(NC)との軋轢から、2024年3月初旬、コングレス党との連立を解消し、オリ元首相(リベラル系共産党UML)との連立を模索していましたが難航し、ダハール首相は、同年7月12日、連邦下院議院において信任投票が否決されため辞任しました。
これを受けパウデル大統領は、多数派となったドウーバ元首相が率いるコングレス党(NC)とオリ元首相が率いる共産党(UML)他の多数派に組閣を命じ、同年7月14日、オリ元首相を首班とする連立政権に交代することとなりました。外務大臣にはコングレス党の党首シェール・ドウーバ元首相のアルズ・デウーバ夫人が就任しました。
オリ首相は、就任後最初の訪問国として中国を訪問し(2024年12月初旬)、一帯一路協力に関する枠組み取り決めに合意しました。これに対しネパール・コングレス党より借款の罠に陥ることへの懸念が指摘されています。中国よりの協力については、2.1億ドル相当の借款によりポカラに国際空港を建設されましたが(2023年)、インドが国際航空のインド領空使用を許可しておらず、国際路線の就航が事実上困難になっている事案が生じています。これらの動きから、ネパールとインドとの関係が停滞する可能性もあり、今後の動向が注目されます。
2、グローバリゼイションは復活するのか
(1)コロナ禍により各種の国際交流は制限され、グローバリゼイションはそれぞれの陣営内での交流に制限されましたが、コロナ禍の収束に伴い国境を越えた国際交流が進展することが期待されます。経済も制約がなくなり、各国でコロナ対策としてこの間に使われた膨大な信用量とそれによるインフレの収束が行われ、経済の正常化が行われなくてはなりません。
しかし2022年2月24日、ロシアがウクライナを侵攻したのに対し、米国を中心とするNATO(北大西洋条約機構)諸国がウクライナに大量の武器支援を行うと共に厳しい対ロシア経済制裁を課し続けたことにより、ロシアと欧米諸国が対立し、1980年代までの東西冷戦構造に逆戻りし、世界は2つに分断される形となりました。軍事面だけで無く、経済面でも欧米を中心とする市場経済圏とロシア、中国を中心とする中央統制経済圏に別れました。ロシアのドル決済も厳しく制限(銀行間決済のためのSWIFTの停止)されましたので、金融面でもルーブル・元通貨圏が生成拡大しています。こうしてグローバルな経済交流は制限され、2つの経済圏の中での国際交流の世界に逆戻りしています。
(2)本年は巳年で粘り強い飛躍が期待されるところですが、米国はトラ年になります。トランプ大統領が1月20日に就任します。同大統領は2回目の就任であり経験を積んでいることに加え、米国の上下両院とも共和党が多数を占めたことから、政策を強力に進めやすい政治情勢となっています。トランプ大統領は既にウクライナ-ロシア間の迅速な停戦、和平を提案しています。双方にとって国家の存立に係わる領土問題と安全保障に関することであり困難な問題ですが、速やかな停戦と和平を期待したいところです。そうなれば、バイデン大統領時代に2つに分断された欧米経済と露経済は相互に交流し易くなり、地域的制限が少ないグローバリゼーションが進展し易くなります。
経済問題では、中国製品への高関税付与に加え、隣国のメキシコ、カナダへの25%関税付与など、米国ファーストへの復帰が表明されています。これに対しトランプ政権は国際協調や多国間主義から外れ、保護主義経済や貿易戦争となるとの懸念が多く報道されています。しかし経済問題は相互に足したり引いたりすることが出来、利益を確保するためにデイール(取引)が可能ですので、経済人であるトランプ大統領はそれを心得ており、デイールは必要でしょうが解決は可能であろうと思われます。
中国については、国内市場で国有企業への補助金を含め、経済活動を中央統制する一方、国外では世界の自由市場の利益を制限無く享受するという状態はフェアーではないので、この間各国が一定の制限を設けることは相互主義とフェアーネスの観点からやむを得ないことと思われます。他方、中国が国内市場の自由化度において内外格差が無くなるよう一層努力することが必要です。
(3)トランプ政権において最大の懸念は、温暖化進行と急速に荒々しくなっている気候変動です。米国と中国が温暖化の原因となる炭酸ガスの最大の排出国ですが、米国が中国を説得し、世界の温暖化対策のイニシアテイブを取れるかが課題となります。温暖化を止めることは、米中双方のためでもあり、南極や北極だけでなく、世界の屋根ヒマラヤを護ることにもなります。
3、日本、ネパール関係
在日ネパール人の数が20万人レベルとなりました。毎年3万人程度増加していると言われています。2024年に設立通算60周年を迎えた日本ネパール協会が事業目的としている両国間の交流促進は達成されていると言えます。
昨年4月より当協会が手がけ始めているネパールにおける農業促進事業は、ネパール人のJICA技術研修生のOBで構成されるJAANの下部機構であるISAPにより、ネパール政府の承認を受け実施されています。このプロジェクトの名称は、英語では日ネ協会の頭文字を冠にしてJNS Agriculture Promotion Projectとしています。このプロジェクトの目的は1)人口の65%内外を構成する農村世帯の所得を高級野菜等の生産販売により向上させること、2)農業産品の品質管理・選別、包装、運送、マーケッテイング、農耕機具の生産などの関連ビジネスの促進、及び3)これらを通じる雇用機会の創出の3つです。5年間の事業ですが、利益が出せるようになれば資金を再投資して、持続可能なビジネスモデルとして「JNS-ISAP農業促進センター( JNS-ISAP Agriculture Promotion Center)」の名称で事業を継続し、当協会の貢献がネパールに残ることが期待されます。
国際環境が追い風となることを期待しています。